3.1通電角制御におけるロジック回路設計書
ブラシレスDCモータでは、インバータを使用し回転子に同期した交流をモータに供給する必要がある。ブラシレスDCモータには電気角60度ずつ信号を出力するホールセンサが取り付けられており、信号の処理はホールセンサの信号から得た角度情報により、その角度に対応した通電角制御を行う。ブラシレスDCモータの最も基本的な駆動法は、6個のスイッチング素子を単純なON/OFF信号で駆動する方式で120度通電方式と180度通電方式があり、矩形波駆動と呼ばれることもある。
<120度通電型>
ブラシレスDCモータの中で良く用いられる制御法として120度通電型がある。この制御法は、三相ブリッジ回路の6個のスイッチング素子のうち一相は上段、もう一相は下段、残りの相は上下ともオフというルールに従いスイッチングパターンが決定される。
Fig3.1(b)は6個のスイッチング素子の動作をモデル化し電流の分布を表したものと、それによって発生する磁界の様子を示したものである。この磁界の中に回転子を置くと回転子は回転力を受け回転する。
このスイッチング方式では、どの相のスイッチも電源とGND側にそれぞれ120度の期間はオンし、60度の期間はオフになっており、そのため120度通電型と呼ばれる。 120度通電型の理論上のU相の相電圧波形とU-V間の線間電圧波形をFig3.1(c)に示す。120度通電型ではいつも2つの抵抗成分(ここでは巻線)にだけ電流が流れるので、相電圧には1/2Eが現れる。
<180度通電角型>
180度通電角制御は、各相がオフ時間なしに行われており各スイッチは必ず上段または下段側のスイッチング素子がオンしている。120度通電型と違って180度通電型では上段と下段の両方のスイッチング素子がオフする期間がないため上段から下段または下段から上段にスイッチが切り替わる瞬間に両方のスイッチがオンし電源とGNDがショートしてしまう恐れがある。これを解消するためにFig3.1(a)に示すようにスイッチが切り替わる瞬間に数[μs]ほど上段、下段両方のスイッチング素子がオフする時間(デットタイム)が必要である。
Fig3.1(d)に180度通電型の電流分布とそれにより発生する磁界が回転する様子を示す。この制御法も120度通電型と同じように60度回転する毎に磁極の位置センサの信号を受けスイッチングパターンを変化させていく。
このスイッチング方式では各相が電気角で180度上段が通電したのち、180度下段側が通電する動作を繰り返すため180度通電型と呼ばれる。 180度通電型の理論上のU相の相電圧波形とU-V間の線間電圧波形をFig3.1(e)に示す。180度通電型では相電圧に1/3Eまたは2/3Eが現れる。
Fig3.1(a) デッドタイムの挿入
Fig3.1(b) 120度通電型スイッチング順序
相電圧波形 線間電圧波形
Fig3.1(c) 120度通電型理論上の電圧波形
Fig3.1(d) 180度通電型スイッチング順序
相電圧波形
線間電圧波形
Fig3.1(c) 180度通電型理論上の電圧波形
3.1.1
120度通電角制御法
Table3.1.1(a)に電気角度ごとのホール信号出力波形を示す。ホールの信号Uを見ると0°‐180°までハイの状態になる。各相は120度ごとに位相がずれて波形を出力する。通電角タイミングはTable3.1.1(b)に示すように各相の出力電圧が120度になる。このホール信号と通電角タイミングを真理値表にしたものをTable3.1.1(c)に示す。ここで,Table3.1.1(c)からUpからWnまでの論理演算を加法標準形で行う。そして、Upは(1)式のようになる。
・・・・・・・・・・・(1)
同様にしてWnまで6つの論理演算を行い、ロジックICのNOTとANDを組み合わせて通電角制御回路を構成する。論理演算から求めた値を回路図にしたものをFig3.1.1(a)に示す。実際の制御ではホール信号入力部にプルアップ抵抗が必要である。また、各相下段出力側にANDを設けてPWMとANDをとることで下段に任意のPWM出力をすることが可能である。
Table3.1.1(a) ホール信号出力タイミングチャート
0° |
60° |
120° |
180° |
240° |
300° |
360° |
U |
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V |
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W |
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Table3.1.1(b) 120度通電角タイミングチャート
0° |
60° |
120° |
180° |
240° |
300° |
360° |
Up |
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Vp |
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Wp |
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Un |
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Vn |
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Wn |
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Table3.1.1(c)120度通電角真理値表
Up |
Vp |
Wp |
Un |
Vn |
Wn |
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U |
V |
W |
1 |
0 |
0 |
0 |
1 |
0 |
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1 |
0 |
1 |
1 |
0 |
0 |
0 |
0 |
1 |
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1 |
0 |
0 |
0 |
1 |
0 |
0 |
0 |
1 |
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1 |
1 |
0 |
0 |
1 |
0 |
1 |
0 |
0 |
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0 |
1 |
0 |
0 |
0 |
1 |
1 |
0 |
0 |
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0 |
1 |
1 |
0 |
0 |
1 |
0 |
1 |
0 |
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0 |
0 |
1 |
Fig.3.1.1(a) 120度通電角制御ロジック回路図
3.1.2
180度通電角制御法
180度通電角制御法も120度通電角制御法は基本的には同じである。180度通電角のタイミングチャートからから真理値表を作成し、論理演算からロジック回路を求める。Table3.1.2(b)に180度通電角制御タイミングチャートを示す。180度通電角制御の場合、各相の出力波形がホール信号同様な出力波形となるため(2)式で制御が可能である。回路図にしたものをFig3.1.2(b)に示す。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
Fig.3.1.2(b)を見ると非常にシンプルなロジック回路であることが分かる。しかし、(2)式を用いた場合、通常駆動は問題ないがホール信号から異常信号が入力された際にインバータを壊す危険性がある。例えばホールセンサのコネクタがモータコントローラに挿さっていなかった場合、ホール信号の入力部はプルアップ抵抗によってホール信号の全相がハイ状態になる。こうなるとFig3.1.2(b)の場合は全相上下段全ての信号がハイになり、インバータが破損する。
180度通電角制御の場合も120度通電角制御と同様に加算標準形の論理式に基づいて計算をする。Table3.1.2(c)に180度通電角真理値表を示す。Upの論理演算を(3)式に示す。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
(3)式であれば、ホールセンサから異常信号が出力されても破損を回避することが可能である。回路図にしたものをFig3.1.2(c)に示す。
<デットタイム生成回路>
180度通電角制御では、前述で述べたように各相がオフ時間なしにスイッチングするため、上段から下段または下段から上段にスイッチが切り替わる瞬間にローサイド側FETとハイサイド側FETがともにONしてしまい、瞬間的ではあるが貫通電流が流れてしまう。そのため両方のスイッチのオフ時間を設けないと電源とGNDがショートしてしまう恐れがある。これを解消するためにFig3.1.2(a)に示すようにスイッチが切り替わる瞬間に数[μs]ほど上段、下段両方のスイッチング素子がオフする時間(デットタイム)が必要である。Fig3.3(a) ではCR回路による遅延回路を応用した回路となっているがCPLDにおいて8ビット・シフト・レジスタを用いて作ることも可能である
Fig3.1.2(a) デットタイム生成回路
Table3.1.2(b) 180度通電角タイミングチャート
0° |
60° |
120° |
180° |
240° |
300° |
360° |
Up |
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Vp |
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Wp |
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Un |
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Vn |
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Wn |
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Table3.1.2(c)180度通電角真理値表
Up |
Vp |
Wp |
Un |
Vn |
Wn |
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U |
V |
W |
1 |
0 |
1 |
0 |
1 |
0 |
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1 |
0 |
1 |
1 |
0 |
0 |
0 |
1 |
1 |
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1 |
0 |
0 |
1 |
1 |
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0 |
1 |
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1 |
1 |
0 |
0 |
1 |
0 |
1 |
0 |
1 |
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0 |
1 |
0 |
0 |
1 |
1 |
1 |
0 |
0 |
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1 |
0 |
0 |
1 |
1 |
1 |
0 |
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0 |
0 |
1 |
Fig3.1.2(a) 180度通電角制御ロジック回路(Up=U)
Fig3.1.2(b) 180度通電角制御ロジック回路図
3.1.3
統合回路
2つの制御方法とその設計法を述べたが、2つの制御回路を合成する必要がある。また、実際の走行では2つの制御を走行中に切り替えしなければならない。まず、120度と180度通電角制御切り替え回路を示す。120度と180度の出力信号は誤動作等で同時にオンにならないようにExORを用いる。PWMとの波形合成は最終的な出力信号にANDを通す。PWM合成回路図をFig3.1.3(b)に示す。
Fig3.1.3 (a) (120/180)制御切り替え回路
Fig3.1.3 (b) PWM合成回路図